FLOOR J-04


千浩観察室(5-7ヶ月)

首がついに起きた。
うつぶせのまま、首を立てて周囲を見回すようになってきた。あたりをきょろきょろと
見回している。しかし考えてみたらこれはすごい事ではないかと思う。というのは、
この事によって千浩はこの世を3次元のものとして捉えだしたのではないか、そう
思えるからである。

以前はごろごろと寝返りを打つだけの、言うならば巻物のような世界から、
球状の視界を得るようになったのではないかと、大げさかも知れないがそう思った。
しかし、体を反らせて寝返りを打つことで、部屋のどこへでも移動できるようになった。
(平面ならば)これもすごいことだな、と思う。4つんばいになっての移動(はいはい)は
まだ出来ない。やらせてみたら、両手で床を押して逆向きに進んでしまい、自分の
思う方向に行けずに泣き出していた。まだまだである。

千浩の記憶とは?
ベランダに朝顔が咲いている。プランターに人参が植えてある。細かい葉が放射状に
延びている。外は真っ赤な夕焼け。千浩が目を丸くして見つめている。
数十年後、千浩はいったい何を覚えているのだろうか? ふと疑問に思う。
自分自身が生まれたときの記憶があるのだろうか?それでは自分はどうか。
多分2歳か3歳の頃。朝起きて寝室から出てきたところにテレビがあって、そこで
やっていたNHK朝のニュース。(スタジオ102とかそんな名前だった?その頃字が
読めるはずがないか)。社宅の洋式水洗トイレ。父が買ってきた初代セリカのプラモデル。
フロントグリルとボンネットが付け替え式で、高いグレードからGT、ST、LT。
16インチの補助輪付きの自転車で走った、社宅の前の広い道路(体が大きくなってから
来てみたら、同じ幅なのに狭い道路になっていてびっくりした)、弟が産まれるころ、
父と二人で食べた「ごはんですよ」。2歳以前の記憶はどうしても出てこない。それでは
今自分が千浩に対して父親としてやっている全ては、千浩の中にどのような形で残るのか。
ま、考えてもこれといった答えは出なかった。

知らない間に大変化。
海外出張等で家を空けるため、妻と千浩には妻の実家に帰ってもらっていた。そのため、
3週間近く会えなかったのだが、その間に千浩はちゃっかり進化していた。
まずお座りができるようになっていた。つまり、座ったままで体が倒れないよう、
とっていられるということだ。それより驚いたのは、はいはいが出来るようになっていた
ことだ。自分で行きたい方向に進めるということだ。今は抱いて欲しいときに泣きながら
向かってくるのがメインの目的ではあるが、それでも行動範囲は驚異的に広がっている。
それより驚いたのは、手で支えてやれば少し歩くことができるようになっていたことだ。
3週間でこれだけ変わるのだから、本当に驚きだ。全く目が離せない。
両手を持ってやると、嬉しそうに叫び声を上げながら部屋中を歩き回る。

つかまり立ち。
家のソファーにつかまって、立てるようになってきた。完全にバランスをとって立てる
訳ではないので、ほっておくと大抵ドテーっとこけるので、ますます目が離せない。
はいはいのスピードも驚異的。いつのまにかいなくなり、気がつくと電話のコードを
引きだして舐めていたりする。電話線に限らずコンセントとか紐関係のものは何でも
好きみたいだ。

歯が生えてきた。
離乳食を始めてしばらく経つ。歯が生えだすと歯茎がかゆくなるのだそうで、何でも
口に入れてかみたがる。歯が生えてきたらしいというので見てみたら、下あごのところ、
うっすら細い白い線が出来ている。すこしずつ生えてきたみたいだ。

精神的に安定。
最近千浩はあまり泣かない。6ヶ月くらいまでは、笑わせようとしても無視されたり、
何をやっても効果なしで自分は働いてお金を稼ぐだけの存在なんだろうか?と少し
悩んだりもしたが、最近は反応も良い。手を出せば抱かれようと這ってくるし、
良く笑ってくれる。かわいい。顔を覚えてくれたのだろうか。が、子供が親を完全に
認識するのは、親に何かを否定されて自分とは違う存在だということを知ったときだとも
言う。今はまだ、自分のお手伝いさんみたいに思っているのかも知れない。
ま、それでもいいのか、今は。

洗面所で沐浴。あせもが出来たので、背中は汚い。が、
ものの一日でほとんど直ってしまう。日焼けもそうだった。子供の回復力はすごい。

11ヶ月まではこちらを。


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Updated at Jan. 30,2000